「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止検討チームによる報告書」及び「精神保健福祉法改正案」に対する声明

 昨年7月26日未明に神奈川県相模原市で発生した障害者支援施設における殺傷事件に関し、政府が設置した「相模原市の障害者支援施設における事件の検証及び再発防止策検討チーム」は12月8日、再発防止策等をまとめた報告書を発表しました。この後この報告内容を受け平成29年2月28日、政府は「相模原市の障害者支援施設での殺傷事件の再発防止」を改正趣旨に掲げた「精神保健福祉法改正案」を閣議決定し国会に上程しました。
 当会としては、本来この事件が「被疑者個人の特異的なパーソナリティ」「過激な障害者嫌悪、障害者の生命、尊厳の軽視」を主要因としたヘイトクライムとしてとらえての重点的検証、分析、対策が講じられないまま、「容疑者=精神障害者/元措置入院患者」の画一的図式のもと「措置入院」と言う分かりやすい外見にのみ焦点化し、再発防止策として措置入院制度の見直しが進められ、本来の目的から逸脱した犯罪の防止を目的に「精神保健福祉法」を改正しようとしていることに強く懸念し、以下の通り意見を述べたいと思います。

1. 精神保健福祉法改正案の廃案、ならびに障害者への差別、偏見の解消に向けた抜本的対策の検討を

 本件事件は、我が国においていまだ社会に根深く存在する差別、偏見、優生思想を社会背景とする中での被疑者の「特異的なパーソナリティ」「過激な障害者嫌悪、障害者の生命、尊厳の軽視」を主要因としたヘイトクライムであることが明らかになりました。にもかかわらず本来最優先して行われるべきこの観点からの事件の検証、分析、対策が講じられないまま、「被疑者=措置入院が必要な精神障害者」と画一的にとらえ、現行の措置入院制度の課題のみを防止策と結び付け、事件の幕引きを曖昧模糊に図ろうとしている節がうかがえます。これでは事件の本質的解明、解決、今後の効果的予防対策に至らないばかりか、措置入院患者、精神障害者の言動が事件の根本原因とする誤った印象を社会に浸透させ、精神障害のある人たちに対する差別や偏見を助長させるにとどまらず、「精神科医療」「福祉」に犯罪の予防と言う保安的側面を背負わせ、むしろ共生社会とは逆行し、精神障害者の社会からの隔離、管理・監視体制の強化につながりかねないことを大変危惧しております。
 
 ついては、精神障害者の差別、偏見を助長し、権利侵害にも抵触すると思われる「精神保健福祉法改正案」を廃案にするとともに、我が国において本事件発生に大いに関係すると思われる社会的背景としての障害者に対する社会の差別意識の存否や醸成、影響力等について徹底的に検証・分析した上で、共生社会、包括的社会の実現に向けた抜本的な対策を講じることを強く望みます。

2. 地域精神保健福祉体制の充実に向け、本来の趣旨・目的に即した精神保健福祉法改正の再検討を

 精神保健福祉法とは本来「精神障害者の福祉の増進及び国民の精神保健の向上」「精神科医療や保護、精神障害者の社会復帰の促進及び自立と社会経済活動への参加支援」のための法律です。その目的はあくまで精神障害をもつ人たちを含めた国民の精神保健福祉の増進にあり、犯罪防止のためのものではありません。にもかかわらず犯罪防止に精神医療を利用すべく、その趣旨・目的に反してまでして今回精神保健福祉法を変えてしまおうとする流れを是認してよいものでしょうか。本来最優先すべきことは精神保健福祉法本来の趣旨・目的に立ち返り、現在この実現化を妨げている諸課題解決に向けた適切な法改正にあると考えます。ちなみに我が国は平成16年に精神保健福祉改革ビジョンの名のもと「入院医療中心から地域生活中心へ」の基本方策を打ち出し、長期入院精神障害者の地域移行が叫ばれ10余年になりますが、現在に至るまでこの改革は遅々として進まず停滞しているのが実情です。この課題においては本来この法律の趣旨に沿うならば、まずは強制入院や閉鎖処遇の最小化、入院患者の最小化に向けた法改正こそが最優先されるべき喫緊の課題と考えます。 
 
 ついては社会的防衛、犯罪予防的アプローチでなく、地域精神保健福祉の充実に向け、本来の法の趣旨・目的に即した精神保健福祉法改正の再検討を強く要望します。

2017年(平成29年)5月10日
特定非営利活動法人群馬県精神障害者社会復帰協議会
理事長 小暮明彦